シンポジウムの要旨(口頭発表者分)

オカダトカゲの色彩パターンの変異を生み出す色素細胞―青い尾とストライプ模様
栗山武夫(東邦大学・院理・生物学専攻)

伊豆諸島に生息するオカダトカゲの幼体は、島ごとに明瞭なストライプと青い尾から、不明瞭なストライプと先端のみ青い尾といった地理的変異が見られる。この地理的変異がどのようなメカニズム・発生過程により生じたかを解明するために、体色をつくり出す色素細胞に注目して、以下の2点を明らかにした。1.色彩パターンを構成する各体色の色素細胞の種類構成と微細構造、2.胚発生時における色素細胞よる色彩形成過程。  オカダトカゲの幼体から3種類の色素細胞(黄・虹・黒色素胞)が確認され、各体色における色素細胞の種類構成は異なっていた。ストライプを構成する黄白色は3種類の、黒色は黒色素胞のみが確認できた。胚発生時に黒色素胞は他の色素細胞より早期に出現し、その分布様式に凹凸加減があるほど明瞭なストライプを形成することが示唆された。また、尾部の青色部分の長さは茶色と青色の境界のずれ、つまり黄色素胞の有無と虹色素胞内の反射小板の厚さの違いが原因であると考えられた。


ヤモリの体色と虹色素胞
宮地和幸(東邦大・理・生物)

ヤモリは主に人家の軒下などに生息し、大小顆粒状の鱗に覆われた小型爬虫類である。背側は、全体が灰色あるいは灰褐色であるが、まだらな暗色模様を呈する。腹は若干暗色を帯びた白色である。このような体色を担っているのは真皮色素胞であり、表皮に近い側から黄、虹、黒色素胞の順に重なって構成されている。基底層直下にプテリノソームやカロテノイド小胞からなる黄色素胞が存在するが、鱗あたり数個である。そのため、通常は基底層直下に虹色素胞が層をなしているのが観察できる。虹色素胞は体全体広く存在していて、多くは背に、次に腹に存在する。虹色素胞の形は糸状で、それらが不規則な細い網目を形成している。個々の虹色素胞内にはグアニン結晶からなる反射小板(幅200-900nm、厚み50-100nm)が存在する。その形は細長く、整然と一定方向に並ぶことはない。虹色素胞の下に、多数のメラノソームからなる黒色素胞がある。体色が全体的に灰色を呈するのは虹色素胞と黒色素胞との相乗によるものであり、暗色の度合いは黒色素胞の密度とメラノソームの分布状態による。


魚類の構造色とその変化
大島範子(東邦大・理・生物分子)

 魚の色は黒、褐色、黄色、赤だけではなく、銀色の魚、青い魚も数多い。タチウオ、カツオ、イワシなど、私たちの食卓をにぎわす魚の多くは銀白色に輝いている。古くから銀色の魚の鱗にあることがわかっていたグアニンは、実は、鱗上の皮膚にある"虹色素胞"に含まれている。虹色素胞も色素胞の1種であるが、枝状突起がなく、球状や楕円体状をしているものが多い。細胞内には厚みが100 nm程度の六角形のグアニンの結晶がほぼ等しい間隔で何枚か重なっている(多層薄膜)。一方、サンゴ礁の青い魚、ルリスズメダイとその仲間たちや、淡水の熱帯魚ネオンテトラの青く輝くストライプの皮膚にも虹色素胞が密に並び、細胞内には、ごく薄い(5-7 nm)グアニン結晶が約100 nm間隔で多数成層している。その他、ゼブラフィッシュ、観賞用グッピーの青色も、虹色素胞の発色による。私たちは、これらの青い色彩が変化することを発見し、色が変わる熱帯魚の虹色素胞を"運動性虹色素胞"と呼ぶことにした。ネオンテトラの運動性虹色素胞を例に、運動の仕組みについても述べる。


光によるネオンテトラ構造色の変化と視物質
河西亜希子(武蔵野大・薬;東邦大・理・生物分子)

 ネオンテトラの縦縞の青い色は虹色素胞による発色である。昼間は青い色が、夜間は紫から透明になり、この昼夜の変化は、光による直接制御であることがわかっている。特に500 nm付近の波長によく反応する。演者らは、虹色素胞に光受容分子、すなわち視物質が存在するのではないかと予測し、視物質遺伝子の発現を検索した。ネオンテトラ目の網膜からオプシン遺伝子をとることから始め、その内の3種の遺伝子が虹色素胞の存在する皮膚にも発現していることを見出した。すなわち、ロドプシン、緑感受性オプシン-1、-2である。これらの結果について報告する。


構造色が変化するオパール薄膜とスマート材料への応用
不動寺浩(物質・材料研究機構)

 粒子径の揃ったコロイド粒子を基板上に規則配列させたオパール薄膜は単色の構造色を発色する。これは粒子の配列面を揃えることで特定波長の可視光のみをブラッグ回折することに起因する。粒子径を変えることで構造色も任意に選択することも可能である。講演者はポリスチレン粒子のオパール薄膜を形成し、粒子間の隙間をシリコンエラストマーで充填させたコンポジット材料を創成した。講演者は機 械的柔軟性を有するフレキシブルなこの材料をソフトオパールと呼んでいる。さらに、ソフトオパール は環境変化によってシリコンエラストマーが影響を 受け、粒子間隔を可逆的に変化させることができる。講演者らは溶媒吸収による膨潤現象により回折ピークが高波長側へシフトする現象と応力による機械変形により低波長側へシフトする現象を発見した。現在、構造色が外部刺激によって可逆的に変化する新材料(スマート材料)として各種工学分野への応用を検討している。